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消費税史 朝日新聞編 その3

こんにちは、くらげです。 

この記事は「消費税史 朝日新聞編 その2」の続きです。

 

前回までの部分で宇野内閣は参院選敗北を理由に退陣し、海部内閣が組閣されました。

しかし、参議院選挙で自民党単独過半数を失いました。これは1955年に自民党が結党されて以来初めてのことでした。

自民党参議院での単独過半数を回復するのは2013年の安倍内閣になってからです。

 

ですから、参議院選後の1989年の臨時国会は、政権与党が参議院過半数を持っていない「ねじれ国会」となりました。55年体制崩壊の前兆だったと言えるでしょう。

 

このことを踏まえたうえで、社説の分析に入ります。

朝日新聞社

1989年7月28日

7月23日が参議院選挙で、翌日24日に宇野首相は退陣を表明しました。これはその直後の記事です。

 

朝日新聞社説『出直すつもりの消費税論議を』(1989年7月28日)から引用

 しかも、今回の追跡調査小委の設置自体、政府が選挙を前に「見直し」を国民に印象づける狙いで行われたという経緯がある。

 検討の対象となるのは、年間売上高3000万円となっている免税点、同6000万円未満の事業者の納税額を軽減する限界控除制度、同5億円以下の事業者に認められている簡易課税制度、伝票を添付しなくてもよい帳簿方式、それに税額表示方法などとされている。

 しかし、いまやこのような技術的な問題だけではなく、消費税の根本にたちかえって検討しなおすべきだと思う。

 将来の福祉財源としては、国民が広く薄く負担する大型間接税のような仕組みが適切であることは、われわれもかねて主張してきている。しかし、そのためには現行の不公平税制を是正し資産課税の適正化もはかりつつ、国民の理解と協力が得られねばならない。

消費税は見直しが必要 

この点は、朝日新聞は繰り返し主張しています。すなわち、免税点の引き下げとインボイス制度の導入です。

この点に変化は見られません。

 

消費税は福祉財源

さらに、朝日新聞は、消費税の”欠陥”の見直しだけではなく、もはや根本的な見直しが必要だ、と述べています。

「根本的な見直し」が何を指しているのか、よく分かりません。

しかし、「福祉財源として、大型間接税が適切だ」ということを「われわれはかねて主張してきている」と書かれていますから、根本的な見直しとは、「消費税の社会保障目的税化」のことを指しているのではないか考えられます。

 

さて、これまでの「消費税史 朝日新聞編 その1」「その2」をお読みになればわかるとおもいますが、「かねてより」朝日新聞が「福祉財源として、消費税が必要だ」と「主張」していた形跡を、私は見つけられていません。

もちろん「示唆」はされていました。しかし、それは明確な「主張」ではありませんでしたから、この社説で朝日新聞が「かねてより主張してきた」といっていることは、あまり信用できません。

 

そもそも、福祉財源として消費税は適切ではありません。このことは、また別の機会に説明する予定です。

 

”まとも”な野党

面白い記述があったので、7月28日の社説をまた引用します。

 

 参院与野党勢力が逆転した結果、税制問題は、政府・自民党内の調整だけでは済まないテーマになった。野党4党は、消費税廃止の方法、税制の再改革、消費税に代わる財源の補てん策について、早急に共同案をまとめようとしている。政府税調も、初めから枠をはめずに、幅広い論議をしてもらいたい。

 消費税を税制改革の基本にかえって論議する場合、平年度で5兆9000億円にのぼる消費税収入の代替財源をどうするかは、避けて通れない問題である。しかし、財源問題だけで消費税廃止論を封じようとしても、国民の納得は得られないだろう。

 社会党が約半分の3兆円を自然増収で賄えるとしているのに対し、自民党は「景気動向に左右される自然増収はあてにできぬ」と主張している。しかし、88年度の当初予算と比べた自然増収は5兆7000億円。年度途中の減税を考えると実質7兆7000億円余で、消費税収入を軽く上回る。

 86年度以来、すでに3年連続、巨額の自然増収が出ているのは事実だ。それなのに、なぜ、消費税実施を急いだのか、納税者に納得のいく説明をすることが先決だろう。

 

参議院では与党が過半数を失ったため、野党が連携すれば参議院では法案を通すことが可能になりました。

そこで、社会党を筆頭に野党4党は「消費税廃止法案」を参議院で可決すべく、動き始めた…という記事です。

 

最近(2019年)の消費税論議を見ていても、「消費税に代わる財源」をどうするのかという点で、論争になってしまうわけですが、1989年の社会党は「(消費税収分の)約半分の3兆円を自然増収で賄える」と主張していたのです。

まあ、バブル景気時代のことですから、現在とは単純には比較できませんが、経済成長による自然増収を減税財源にあてる、というのはとてもまっとうな主張に思えます。

当時は、現在と比較して”まともな”野党があったのかな、と思った次第です。

 

1989年8月10日

さて、宇野総理の辞職によって、8月10日海部内閣が発足しました。

 

ところで、海部俊樹早稲田大学出身で、竹下登の後輩でもありました。

総理辞職後も、自民党内で隠然たる実力を持っていた竹下は海部を宇野の後継に指名したわけですが、その理由は、同大出身ということもあり、コントロールしやすいことや、海部は国民から「クリーン」な政治家だと思われていたためです。

 

さて、閑話休題

 

朝日新聞社説『海部政権に注文したい』(1989年8月10日)から引用

 海部政権が発足した。今年に入って3人目の首相だ。早い時期に衆院を解散し、自民党政権の是非を国民に問うべきである。その前提に立って、新政権に注文したい。

 ここ数年の間、わが国の政治は異常な状態が続いた。どのようにして、国民の政治への信頼を回復するか。新政権の第1の課題だ。いま、海部首相に求められているのは、党内の大派閥の思惑にとらわれない強い指導性を発揮することである。

 もちろん、これは容易なことではない。党・内閣の人事では女性2人の入閣で新味を出したが、依然、派閥力学が幅をきかし、党内基盤の弱い海部氏が自由に振る舞える余地は極めて狭いということが明らかになった。

 また、宮沢派が党3役からはずれ、従来の総主流派体制に変化が起こる可能性も出てきた。海部氏は捨て身の政治運営をしない限り新風は吹かないだろう。

 第2は、消費税の見直しに誠意ある態度を示すことだ。高齢化社会に向けて望ましい税制はどのようなものか、ということだけではない。公約違反、強行採決など、民主主義の基本にふれる問題が集約されている。新政権の姿勢をうらなう根本課題だろう。

 海部首相は「福祉目的に使う」と使途を明確にし、「教育費や薬品の非課税範囲を見直す、消費者の立場に配慮する」などの考えを明らかにした。だが、問題はそんな技術的なことではない。「ウソをついて悪かった」と国民にわびるところから始めるべきだ。

 第3は、自民党が約束している政治改革の推進である。首相は当面、先国会に提出した政治資金規正法改正案、公職選挙法改正案の成立を急ぐ考えのようだが、両改正案に盛り込まれた企業献金の公表基準の引き下げ、寄付の禁止強化などは、不徹底である。見せかけの政治改革に終わってはならない。

 

解散総選挙を求める

1989年に入って、竹下、宇野、海部と3人目の総理大臣ですから、かなりの異常事態ですし、政権への不満を考えれば、総選挙を求めるのは当然と言えるでしょう。

 

問題はこの後です

 

消費税は福祉目的に使う

前回の「消費税史 朝日新聞編 その2」で引用した、1989年6月28日の社説では、政府は「消費税は一般財源である」という立場でした。

それが一転、海部首相は「(消費税は)福祉目的に使う」と明言してしまいました。

 

これは、朝日新聞の主張が通った、と言ってよいでしょう。ここから先、消費税と社会保障は切り離せない問題となっていきます。もしかしたら、海部首相のこの発言は、大きなターニングポイントだったかもしれませんね。

 

1989年9月28日

朝日新聞社説『野党の「財源案」をこう見る』(1989年9月28日)から引用

 消費税廃止を主張している社会、公明、民社、社民連4党が、消費税に代わる財源案をまとめた。10月下旬には関係法案を国会に提出し、政府・自民党に消費税廃止を求めて論戦をいどむ段取りである。

 消費税収入は、平年度5兆9400億円と見込まれている。したがって、廃止するならこれに代わる財源をどう手当てするのか示せというのが自民党の主張だった。これに対し共産党は「消費税を導入したのは自民党なのだから、政府・自民党が考えるべきことだ」と突っぱねている。

 4党は「財源確保は本来、政府の責任」としながらも、政策責任、政策能力を示す立場から提案する道を選んだ。結果は、残念ながらやはり支持基盤の異なる4党の妥協の産物となり、整合性に欠ける印象は否めない。

 4党は、参院選での与野党逆転を背景に、消費税を来年3月限りで廃止することで合意した。そして「国民税調」を設け、約2年間かけてわが国の税制を抜本的に再検討し、国民の信頼と理解を得られる新税制をつくると主張している。

 消費税廃止に伴う代替財源案は「本格的な税制再改革までのつなぎ」であるにしても、野党が主張する理念と結びつくものでなければならない。本来めざすべき税のあり方との整合性を欠いた、単なる財源のつじつま合わせに終わらせてはならないはずである。

 これをたたき台に、国民の評価に耐える税制改革案をねり上げてもらいたい。

 

野党は何をしていたのか

 自民党が消費税の”存続”を前提とした見直しを検討していたのに対し、野党は、特に社民党は消費税の廃止を公約としてきました。

そして、1989年参議院選挙では自民党が負け、社会党が躍進しました。これは「消費税をやめてくれ」という民意が示された、と言っても過言ではありません。

 

当然、野党は「消費税廃止」の公約実現にむけて策動し始めます。具体的には、「消費税廃止法案」を作って、参議院に提出しよう、ということです。

参議院では、野党が過半数ですから、各党が協力することで法律の可決が可能となります。もちろん、衆議院では否決されることは明らかですから、これも野党のポーズに過ぎないという見方も出来ます。

 

とにかく、野党は「消費税廃止法案」の作成準備に取り掛かりました。

その内容は大まかに、「とりあえず消費税は廃止して、その後2年のうちに「税制調査会」の議論の中で新しい税制を模索する」というものでした。

たしかに漠然としていますね。

朝日新聞も「結果は、残念ながらやはり支持基盤の異なる4党の妥協の産物となり、整合性に欠ける印象は否めない。」と、野党案を批判しています。

 

いずれにせよ、朝日新聞の立場はあくまで「消費税は必要で、福祉目的税にすべき」というものですから、「消費税の廃止」というのは、あまり面白くなかったのでしょう。

 

1989年11月14日

朝日新聞社説『消費税論議は分かりやすく』(1989年11月14日)から引用

 野党4会派による消費税廃止関連法案の審議入りが、またつまずいた。参院の税制問題等特別委員会が、法案の字句の訂正方法をめぐって対立したためだが、論戦を待つ側には、いかにももどかしい。

 今国会は消費税問題が最大の焦点といわれ9月28日に召集された。すでに会期のなかば、40日以上過ぎたが、パチンコ献金問題が表面化したりして消費税の存廃論議はわきに置かれた形になっていた。一時の熱気がさめたところで本題に入るという自民党の作戦通りに運んでいるようにみえる。

 われわれは、消費税の導入が国会で十分な審議をつくさないままに、自民党強行採決によって行われた経緯から「こんどこそ充実した審議を」と求めてきた。が、これまでのところ、与野党の対立点がはっきりしているわりにはすれ違いに終始しており、内容のある論議が行われたとは言い難い。衆院の解散、総選挙含みの政治情勢とはいえ、国民の関心は大きいだけに、残る会期を活用して中身の濃い論戦を期待したい。

 そのためには、消費税の「廃止」を主張する野党と「見直し・存続」を主張する与党とがそれぞれの案を出し合い、互いに比較しつつ、国民にわかりやすい論議をかわすことが必要である。

 

置き去りにされる消費税問題

1989年臨時国会は消費税問題が大きな問題になると思われていましたが、「パチンコ献金問題」という汚職事件が発覚し、野党はそちらで政権批判を強めました。

一方、「消費税廃止法案」は自民党の妨害によってなかなか審議入りできない状態が続き、また、消費税導入から半年以上も経過したことで、消費税は”旬”な話題ではなくなっていました。

 

朝日新聞も「今度こそ充実した審議を」と、与野党に求めています。

 

1989年12月2日

 自民党の消費税見直し案が、やっとまとまった。しかし、これが「消費者の立場に立って、思い切って見直す」と強調した海部首相の公約に沿ったものと言えるのだろうか。

 目標にしていた11月末決定がずれ込んだのは、食料品を流通の全段階にわたって非課税とするか、1.5%の軽減税率にして小売りのみ非課税とするか、でもめたからだった。結局、後者に落ち着いたが、小売価格ではどちらでも大差はないのだから、消費者にとってはあまり関係のないことだった。

 われわれがかねて主張してきたように、いまの消費税の仕組みには、大きく言って2つの欠陥がある。

(中略)

 現行消費税の持つ本質的な欠陥に目をつぶって、選挙目当ての小手先の見直しに終始していたのでは「広く薄く課税する」という原則も崩れてしまい、その穴埋めに、結局は税率も上げざるを得なくなろう。

 野党側の「廃止」にも問題は多いが「抜本見直し」もまた容易でないことがはっきりした。国民が、それをどう判断するかである。

 

自民党の見直し案

 宇野政権時代から始まった自民党内の消費税見直しの動きは、遅れに遅れ、12月の頭になってようやくまとまりました。内容は、軽減税率の導入などです。

 

朝日新聞は、消費税の見直しとして、免税点の引き下げとインボイス制度の導入を求めていて、この社説にも具体的なことが書かれていますが、何度も見てきた内容だったので(中略)させてもらいました。

自民党の消費税見直し案は、それらの消費税の”欠陥”の見直しには一切触れていなかったため、朝日新聞は不満を表明している格好です。

 

「結局は税率も上げざるを得なくなるだろう」という記述は気になりますが、文脈的に、朝日新聞の「主張」ではないと思われます。

 

 1989年12月21日

 自民党税制調査会が今回、最も力を入れたのは、先に決めた消費税見直し案の具体化である。消費税を定着させるという同党の立場からすると、大綱にはそれなりに評価すべき点がないわけではない。

 食料品の小売り段階非課税、生産と卸段階の軽減税率は、わかりにくいという批判もある。しかしこれをきちんと行うためには取引に税額票を添付した方が便利だから、現行の帳簿方式から伝票方式への切り替えに道を開くことにもなる。

 消費者が納めても国庫に入らぬ部分をできるだけ絞るために、簡易課税制度の「みなし仕入れ率」を一律ではなく、政令で業種ごとに定めることにした。また中間申告、納付回数を増やして「財テク運用」の道を封じようとしている。企業の交際費や社用車の購入には仕入れ税額控除を認めないことにした。消費税カルテルの廃止も検討するという。

 これらは、われわれがかねて指摘してきた現行消費税の欠陥を、多少なりとも改善するものだ。が、もともと欠陥の多かったものである。消費税廃止を主張する立場からは、この程度の手直しで満足できないのは、野党の指摘を待つまでもあるまい。

 自民党の見直しを評価

12月2日時点では、自民党の見直し案に不満を持っていた朝日新聞も、12月21日には一転、

「われわれがかねて指摘してきた現行消費税の欠陥を、多少なりとも改善するものだ」

として、一定の評価をする立場に変化しました。

 

私も、この記事を執筆段階で、この自民党消費税見直し案が結局どうなったのか、よく分かりません。ですからもう少し様子を見ることにします。

 

記事のまとめ

宇野内閣の崩壊から、1989年の年末までの消費税に関する朝日新聞社説を分析してきました。

1989年臨時国会は、この問題の一つの山場だったわけですが、野党の「消費税廃止法案」は廃案となり、自民党も見直しの方針を示しましたが、法案として国会審議をすることはなかったので、結局、消費税制度には何の変化もなく、導入から時だけが過ぎてゆき、国民の熱気もなくなる…という結果に終わりました。

 

消費税問題以外の部分では「天安門事件」や「ベルリンの壁崩壊」など、冷戦の終わりが見え始めました。

特に12月29日に日経平均株価が3万8957円44銭に達し、その後下落を始めたことは、「バブル崩壊」の前兆現象でもありました。もちろん、当時の人々はそれが「バブル」だなんてゆめゆめ思っていませんでしたし、1990年に入ってからもしばらくは好景気が続きますが、しだいに不況時代へと突入していくことになります。

 

さて、朝日新聞の社説については、7月28日の「消費税は将来の福祉財源として必要」として、消費税と社会保障を一体の問題として論じ始めたことが注目されます。

その後の臨時国会における政局化した消費税問題は、正直に言って、大局的には見るべきものはありませんでした。

 

今日はこんなものでしょうか。次回からはようやく1990年に入ります。いやはや、ペースが遅すぎる…それでは~