飛鳥山 News blog

ニュースの深堀をしています

消費税史 朝日新聞編 その2

おはようございます、くらげです

朝早いですが、目が覚めてしまいました。ゴロゴロしている暇があるなら卒論をやらねばなりません。

 

さて、昨日書いた「消費税史 朝日新聞編 その1」の続きです。

前回までの部分で竹下内閣は崩壊しました。次は宇野内閣です

朝日新聞社

1989年6月28日

朝日新聞社説『消費税をどう「見直す」のか』(1989年6月28日)から引用

 

 消費税への根強い批判を背景に、政府税制調査会が制度の見直しに向けて検討作業を始めることになった。

 消費税が実施されてから3カ月。簡易課税を選択する事業者の届け出などは9月までだし、納税が一巡するのは来年5月だ。実施後の資料も整わないうちに、なぜ、いま「見直し」なのだろうか。

 政府の意図は明白だ。東京都議選やそれに続く参院選挙の争点として、消費税が大きな比重を占めており、見直すという形を整える必要があるからである。

 消費税は、もともと3年前の衆参同日選挙で、自民党が「やらない」とした公約をホゴにして導入した大型間接税だ。国会で中身の論議も十分行われないまま、自民党強行採決し、準備期間も短かった。それだけに、直すべき問題点がいろいろある。

 (中略)

 一口に「消費税の見直し」といっても、容易ではない理由がここにある。

 宇野首相が都議選の応援演説で、免税点の存続か見直しかで揺れる発言をしているのを見ても、政府・自民党にしっかりした覚悟があるとは思われない。まして実施後の資料も整わない現状では、選挙を意識したポーズだけの見直しに終わる公算が大きい。税額がはっきりしない内税方式を原則とするような見直しは、改悪となる恐れもある。

 選挙目当ての小手先の見直しなら、やらない方がましだ。野党は見直しより、廃止を主張している。いずれにしても、われわれがかねて主張している通り、国政選挙で早急に民意を聞くことが必要である。

 

選挙目当ての「見直し」

さて、長々と引用しましたが、時代背景を説明せねばならないでしょう。

この記事はあくまで「朝日新聞編」なので、詳しくはまた別の記事に回します。

簡単にまとめると、1989年6月3日に竹下内閣が総辞職し、同日宇野内閣が発足しました。そして、宇野内閣の目下の課題は直前に迫った「参議院選挙」でした。

 

前回までの朝日新聞社説が指摘していたように、消費税の税制にはいくつかの問題点がありました。そのことは

「消費税は、もともと3年前の衆参同日選挙で、自民党が「やらない」とした公約をホゴにして導入した大型間接税だ。国会で中身の論議も十分行われないまま、自民党強行採決し、準備期間も短かった。それだけに、直すべき問題点がいろいろある。」

と書かれている通りです。

 

しかし、消費税の見直しは朝日新聞も求めていたことです。何が問題なのかと言えば

「税額がはっきりしない内税方式を原則とするような見直しは、改悪となる恐れもある。

 選挙目当ての小手先の見直しなら、やらない方がましだ。」

というところでしょう。

要するに、宇野内閣の消費税見直しは選挙目当ての”ポーズ”に過ぎず、実現されても改悪になる可能性が高いから、やらない方が良い…というのが朝日新聞の主張です。

 

ところで、「内税方式」という新しい用語が出てきました

 

内税方式と外税方式

内税方式とは「税込み表示」のことで、外税方式とは「税抜き表示」のことです。

詳しくは以下に財務省HPへのリンクを貼っておきますから、そちらをご覧ください。

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/sougakuhyoji_gaiyou.htm

 

これは、そこまで複雑な話ではないので、ここで簡単にまとめておきます。

消費税導入当初は「税込み表示」と「税抜き表示」のどちらを採用すべきか、法律では定められていなかったため、その判断は各事業者に委ねられていました。

事業者は商品価格を安く見せたいのですから、とうぜん「税抜き表示」が主流になっていましたが、「税込み表示」をしている事業者もいたため、ややこしい状態になっていました。

この状態を打開するため2005年(平成16年)からは「内税方式」つまり「税込み表示」が義務づけられました。

私なんかは、税込み表示に慣れていたのですが、2005年から始まった制度だったのですねぇ。

ただし、2014年(平成25年)10月1日~2022年(令和3年)3月31日までの間は、「税抜き表示」を認める特別処置法が制定されました。これはもちろん消費税率の5%から8%への引き上げに伴ったものです。

最近(2019年)は、外税表示ばかりで、内税表示に慣れていた私なんかは、「税込み表示に戻せよ」なんて日々思っていましたが、これは特別法なので、2022年にはもとに戻るんですね。

 

さて、話を社説に戻します。

朝日新聞は「内税方式」について「改悪となる恐れもある」と表現しています。

なぜ「改悪」という表現になるのかは、よくわかりません。

消費税の目的

今回の記事は、まだ興味深い箇所があるので引用を続けます

 

 税調も「見直しのための審議を始めた」という形を整えるだけでは存在理由が問われよう。このさい、税制全体のなかでの消費税の位置づけなど、基本的な問題をしっかり審議してほしい。

 第1は、高齢化社会の福祉財源と消費税との関係を国民が納得できるように、負担と受益の実際を明らかにすることだ。

 政府は、高齢化社会の安定的な財源として消費税の導入が必要不可欠としながら「福祉目的税ではない」と一線を画している。一方で、厚生年金の掛け金引き上げ、支給開始年齢の繰り延べなどを打ち出している。巨額の自然増収が続くなかで導入された消費税に、納税者の不信感が強いのもこのためだ。

 つぎに、資産課税の抜本的な改革が必要である。政府は「所得、消費、資産等の間で均衡がとれた税体系」をうたいながら、資産課税は実質上手つかずのままだ。

 今回の税制改革が金持ち優遇と批判されているのは、所得税の累進構造をゆるめて逆進性の強い消費税を導入したからだ。この結果、高額所得者層の資産保有が増えれば、国民の間の資産格差はますます広がる。相続税贈与税はもとより、土地や株式についても課税方式の見直しが急務といえる。

 

 

さあ、「高齢化社会の福祉財源と消費税との関係」というキーワードが出てきました。

はっきりと書かれてはいませんが、朝日新聞は消費税の目的が高齢化社会に向けた安定財源の確保であり、さらには消費税は「福祉目的税」にすべきだ…とかんがえていることが垣間見えます。

 

「政府は、高齢化社会の安定的な財源として消費税の導入が必要不可欠としながら「福祉目的税ではない」と一線を画している。」

と書かれているとおり、政府は当初、消費税は一般財源という認識でした。

このことについては改めて解説が必要でしょうが、消費税は社会保障財源には向いていない税制です。その点、朝日新聞の書いていることは少しトンチンカンに思えます。

 

逆進性と富裕層への課税強化という主張はオマケみたいなものです。次へ行きましょう

 

1989年7月10日

 

朝日新聞社説『消費税論争に必要な冷静さ』(1989年7月10日)から引用

 参院選自民党過半数を割れば、野党側は一致して消費税廃止法案を出す意向を明らかにしている。参院先議で可決されれば、矛先は衆院に向かい、総選挙をめぐる政争の具として消費税はもみくちゃにされてしまう可能性が大きい。

 こうした消費税の「逆風」を招いたのは、ほかならぬ自民党自身であることを、とりわけ同党関係者は肝に銘じてもらいたい。

 巨額の自然増収が続いているにもかかわらず、政府・自民党が強引に導入した現行消費税には、消費者が納めても国庫に入らぬという根本的な欠陥がある。

 しかし、税制改革は仮に野党が政権を取った場合でもやらなければならぬ最重要課題である。リクルート事件や首相の女性問題とからめた「反自民感情」とは一線を画した、冷静な論争が行われなければならない。

 社会党は、消費税を今年度限りで廃止することを提案、直接税を中心とした総合累進課税の徹底を主張している。だが、このほかにも、いったん廃止したうえでより良い間接税をつくり直すという考え方もあろう。

 廃止した場合の混乱を避けるために、現行の消費税の欠陥を抜本的に改善すればよいという有権者もいるだろう。

 伝票方式に切り替えて品目別の区分けができるようにすれば、食料品のような生活必需品の税率を下げる半面、ぜいたく品の税率を上げることで逆進性が緩和される。

 消費税が高齢化社会を支える安定財源として必要だというなら、「福祉目的税」に限定することも考えられよう。

 与野党とも、こうした有権者の多様な選択にこたえられるよう、消費税・税制改革に対する態度を明確にしてもらいたい。

 痛税感をやわらげるために、本体価格込みの内税方式にするなどは、本質的な改革とはいえない。それよりも、不公平税制の是正、資産課税の強化など不十分なまま残されている改革にどう取り組むのか、その処方せんを具体的に示すことが先決だ。これらは、消費税が廃止された場合にその穴埋め財源をどうするかという問題とも絡んでいる。

 消費税が廃止された場合の「混乱」は、日本が民主主義国家であることを示す授業料とみたいが、その場合でも冷静な論議のうえに立った国民的合意の再形成が必要になる。

 

参院選直前の政治状況

宇野宗佑自民党内で総裁に選ばれた理由は「リクルート事件」に関わっていない「クリーン」な政治家だから、ということだったようです。ところが、就任間もなく宇野首相には「女性スキャンダル」が浮上します。このことは、参議院選挙に向けて致命的なこととなってしまいます。

一方、社会党は消費税の廃止と総合累進課税の導入を主張していました。

 

朝日新聞の立場

このような政治的混乱の中で、朝日新聞は消費税問題について、

リクルート事件や首相の女性問題とからめた「反自民感情」とは一線を画した、冷静な論争が行われなければならない。」

と語っています。

まあ、この主張自体はまともです。言うは易く行うは難し、だとは思いますが。

 

問題はこの後に書かれていることです。

 

福祉目的税

色々書いてありますが、インボイス制度の導入に関しては、従来の朝日新聞の主張と変わりません。注目したいのはこの部分、

「消費税が高齢化社会を支える安定財源として必要だというなら、「福祉目的税」に限定することも考えられよう。」

…考えられよう、などと他人事のように書かれていますが、6月28日の社説でも言っていたように、このあたりから朝日新聞は「消費税を社会目的税にすべきだ」と考え始めたと考えられます。ただし、まだ明確な「主張」になっているとまでは言えません。

 

内税方式について

6月28日の社説で、なぜ朝日新聞が内税方式に反対しているのか、よく分かりませんでしたが、

「痛税感をやわらげるために、本体価格込みの内税方式にするなどは、本質的な改革とはいえない。」

という、このあたりが理由なのでしょうか。

 

うーん、個人的には税込みか税込みじゃないのかは、結構深刻な問題だと思いますけど。

 

 

記事のまとめ

今回は宇野内閣時代の朝日新聞社説を見てきました。宇野内閣は6月3日に発足し、参議院選挙の敗北を理由に7月24日には退陣するという超短命政権で、見るべきところはあまりないのかもしれません。

しかし、消費税導入に伴う政治的混乱という意味では、象徴的な内閣ともとらえられるでしょう。

 

そしてなによりも、朝日新聞が「消費税と社会保障」を同じ問題として扱い始めた点は注目すべき点です。本来、その二つは別の問題として扱うべきだった…と私は思いますが、結果的には朝日新聞の思惑通りに歴史は進んでいくことになります。

 

 

は~、朝から疲れた。この記事、5000字近いんですよ?引用が多いとはいえ、このペースでは身が持たないかもしれませんね。再考の余地ありです。

それでは~