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歪められた消費税議論

おはようございます、くらげです

 

さて、これまで「消費税史 朝日新聞編 その1」「その2」「その3」と記事を書いてきました。

その中で、朝日新聞が「消費税は社会保障目的に使うべきだ」と1989年半ばごろから言い始めたことは、上記の記事を読んでいただければ、お分かりいただけると思います。

そして、朝日新聞がそのような社説を書くたびに、私は”私の見解”として「消費税は社会保障目的には不適である」とも申し添えてきました。

しかし、その説明は「別の機会で」ということにしてきました。

 

ですから今回の記事は「なぜ消費税は社会保障目的には不適なのか?」という疑問に対する回答となります。

くわえて「消費税は優れた税制」の続きにもなっていますので、そちらもご覧ください。

 

歪められた消費税議論

消費税は優れた税制です。詳しくは「消費税は優れた税制」で説明済みですが、簡単にまとめると「脱税がしにくい」「徴税コストが安い」「景気に左右されない」という3点に集約されます。

 

一方、巷では”消費税のデメリット”が語られることがあります。

まずはその点をまとめておきましょう。

消費税のデメリット

消費税には大まかに二つのデメリットがあると言われています。他にも税制上の欠陥と言える点もありますが、それについては「免税点制度と簡易課税制度」をご覧いただくとして、まずはその2つについて説明していきましょう。

逆進性がある

消費税には逆進性があります。

 

消費税とは”消費”に対して発生する税金ですから、収入があっても貯金などをしてしまえば消費税はかからないことになります。

これでは高所得者に有利で、低所得者に不利になってしまいます。これが「逆進性」と呼ばれる問題です。

 

より具体的に説明します。

人間はだれしも食べ物を食べなければ生きていけません。それは当たり前のことです。

しかし、人間は無限に食べ物を食べることは出来ません。つまり、お腹がいっぱいになってしまえば、そこで食事は終わります。

 

もちろん、”消費”には食料品以外も含まれますし、食べ物だって高いものと安いものといった違いはあります。

それでも、人々の消費支出は大雑把に言って、低所得者であろうが高所得者であろうが大して変わらない、ということが言えるでしょう。

 

少し難しい言葉を使えば、可処分所得における消費支出の割合は、低所得者ほど大きく、高所得者ほど小さくなる、ということです。

 

難しいことではありません。

例えば、年収300万円の人が一年間に250万円の消費支出をしたとしましょう。

軽減税率などを無視すれば、払う消費税額はだいたい、250万×10%=25万円となります。

一方、年収2000万円の人が一年間に600万円の消費支出をしたとします。

すると、払う消費税額はだいたい600万×10%=60万円ということになります。

 

一見、高所得者の方が消費税を多く払っているように見えますし、実際にそうなのですが、所得に占める消費税の割合となると、話は変わってきます。

計算すると前者の人は約8.3%なのに対し、後者の人は約3.0%となります。

 

年収300万円  消費支出250万円  消費税額25万円  割合8.3%

年収2000万円   消費支出600万円  消費税額60万円  割合3.0%

 

低所得者の方が、所得に占める消費税の負担割合が大きいことがお分かりいただけたでしょうか?

 

まあ、これは架空の設定なので、現実のグラフをお示しします。

全国商工団体連合会HPから引用します。

https://www.zenshoren.or.jp/zeikin/shouhi/120116-02/120116.html

 

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私が説明したように、確かに消費税は低所得者により重く、高所得者により軽く、負担がかかっていることがお分かりいただけるはずです。

これが消費税の逆進性です。

 

景気安定化機能がない

消費税には景気安定化機能がありません。

これは「消費税は優れた税制」で説明した、消費税は「景気に左右されない」ということの裏返しです。

 

法人税は事業者が赤字になれば払う必要はありませんし、所得税には所得に応じた累進課税があります。それは「ビルトインスタビライザー」と呼ばれ、景気を安定化させる機能も持っています。

 

消費税にはそのような機能がない、ということです。

 

 

消費税は地方行政サービスの財源に向いている

ここまで、消費税のデメリットを解説してきましたが、実を言うとそれらはある意味、"歪められた"議論なのです。ここからはそのことについて説明します。

 

「逆進性」の議論は本質的ではない

税金を考える上で、払った税金の負担と行政サービスの受益が等価値でなければならない、ということはご理解いただけると思います。

十分な所得があるのに、税金を滞納している人が、「家が火事になったから」といって消防車を呼べば、もちろん消防車は来るでしょうが、普通に税金を支払っている人からすれば、不満この上ないでしょう。

 

そして、世の中には、所得に関係なく全員が平等に享受している行政サービスがいくつもあります。例えば、ごみの収集、水道管理、警察、消防…などです。

日本は治安のよい国として有名ですが、それも警察がきちんと機能しているからです。治安の良さは所得の大きさに関係なく、全ての人が享受しています。

 

警察や消防などの基礎的な行政サービスは、所得に関係なく全員が平等に享受しているサービスである以上、負担=受益という観点から言って、それらのサービスの財源となる税金は、日本に住む人全員が平等に支払うべきでしょう。

 

安定財源は必要

そして、それらの基礎的な行政サービスは安定的に運営されなければなりません。

「今年は景気が悪くて税金が集まらなかったから、消防業務は休止します」なんてことは出来ません。

ですから、基礎的な行政サービスの財源は安定的に確保する必要があります。

 

消費税は地方行政の財源に適している

ここまで見てきたように、基礎的行政サービスは平等かつ安定的な財源が必要であり、それに最適なのが消費税なのです。

 

基礎的行政サービスの多くは地方自治体が担っていますから、消費税は地方行政の財源に適している、と言えるでしょう。

 

消費税が社会保障財源に適していないワケ

社会保障は保険方式

さきほど、税金は「受益=負担」が基本だ、と申し上げました。

では、社会保障はどうでしょうか?

たとえば、生活保護などは給付があるだけで、負担がありません。しかし、生活保護を受給している人は、税金を払うほどの所得がないから生活保護を受けているのであって、彼らに負担を求めるのは酷というものです。

生活保護については、「所得の再分配」という意味合いもあるのですから、累進性のある所得税が財源としては適切でしょう。

他にも、年金や医療保険はどうでしょうか。これらは、保険料を支払った人が年金や医療費の負担軽減という形で受益する仕組みです。

特に年金については、一定の年数以上払わないと年金を受け取れませんし、年金保険料として支払った額が多い人ほど、将来受け取れる年金の額が大きくなります。

 

『「消費増税」は嘘ばかり』(高橋洋一、2019年)から引用します。

 

消費税は誰がいくら支払ったのかという明細が残っていないのに対して、社会保険料は誰がいくら支払ったかという個人別の明細記録が残っています。じつは、この記録の有無の違いが大きい。保険料は記録が残るので、給付と負担の関係が明白になります。保険料を多く支払った人は給付が多くなり、保険料をあまり支払っていない人は、給付が少ない。じつにシンプルな仕組みです。(p119)

 

引用文献からも分かる通り、消費税を社会保障財源にしてしまうと、受益と負担の関係がゴチャゴチャになってしまうのです。

ですから、年金財政が苦しいなら年金保険料を上げればよく、医療保険も同じです。

 

以上のことから、消費税が社会保障財源には向いていないということがお分かりいただけたでしょうか。

 

適正な消費税率とは

実は、消費税は税収の全てが国の税収となるわけではありません。

現在の消費税率は10%ですが、そのうちの2.2%は地方へ回り、残りの7.8%が国の税収となります。

 

現在、消費税は社会保障財源として使われていますが、もし仮にそのような悪しき慣習をやめて、消費税を全て地方行政の財源に回すとしたら、適正な消費税率はいくつになるのでしょうか?

 

地方財政は、独自税収+消費税収+地方交付税交付金、で賄われています。

ですから、国の一般会計において、消費税を社会保障費にあてるのではなく、地方交付税交付金だけに絞って、税率を決めることにしましょう。

 

財務省の2018年度(平成30年度)一般会計決算概要を見ると、

地方交付税交付金:15兆8713億円

消費税収:17兆6808億円

となっています。その差額は1兆8095億円です。

当時の国の消費税収は消費税8%のうち6.3%分でしたから、消費税1%につき2兆8064億円ほどある計算になります。

すなわち、地方交付税交付金と消費税収の差額は、消費税率に換算すると約0.64%であり、8‐0.64=7.36 なので、適切な消費税率は7.36%という結果になります。

 

そうとう大雑把な計算ではありますが、消費税率を8%から10%に上げる必要はなかったと言えるのではないでしょうか?

 

まとめ

巷間言われている通り、消費税には逆進性があります。それは確かです。

しかし、それは「消費税は社会保障費に使う」という前提に基づいた議論です。社会保障とは、そもそも所得の再分配も担っていますから、その財源に逆進性のある消費税を用いることは本末転倒です。

「消費税は基礎的行政サービスに使う」ということにすれば、警察や消防などは所得に関係なく受益しているわけですから、その財源となる税金は全員が平等に支払うべきで、消費税の逆進性は問題ではなくなります。

 

繰り返しになりますが、消費税は優れた税制です。そんな優れた税制が日本においてこれほど呪われた税制となってしまったのは、消費税と社会保障という、本来相容れない問題を一体の問題として扱ってしまったためです。

 

さて、消費税と社会保障の関係についてお分かりいただけたでしょうか?

私が提案した「消費税率7.36%が適正」というのは、ほんのお遊びです。しかし、参考程度にはなる数字だとは思います。

 

はー、長かった。これで、卒論の序章部分、つまり本論の前提となる消費税の基礎知識の説明はほぼ完了しました。

それではこのへんで

消費税史 朝日新聞編 その3

こんにちは、くらげです。 

この記事は「消費税史 朝日新聞編 その2」の続きです。

 

前回までの部分で宇野内閣は参院選敗北を理由に退陣し、海部内閣が組閣されました。

しかし、参議院選挙で自民党単独過半数を失いました。これは1955年に自民党が結党されて以来初めてのことでした。

自民党参議院での単独過半数を回復するのは2013年の安倍内閣になってからです。

 

ですから、参議院選後の1989年の臨時国会は、政権与党が参議院過半数を持っていない「ねじれ国会」となりました。55年体制崩壊の前兆だったと言えるでしょう。

 

このことを踏まえたうえで、社説の分析に入ります。

朝日新聞社

1989年7月28日

7月23日が参議院選挙で、翌日24日に宇野首相は退陣を表明しました。これはその直後の記事です。

 

朝日新聞社説『出直すつもりの消費税論議を』(1989年7月28日)から引用

 しかも、今回の追跡調査小委の設置自体、政府が選挙を前に「見直し」を国民に印象づける狙いで行われたという経緯がある。

 検討の対象となるのは、年間売上高3000万円となっている免税点、同6000万円未満の事業者の納税額を軽減する限界控除制度、同5億円以下の事業者に認められている簡易課税制度、伝票を添付しなくてもよい帳簿方式、それに税額表示方法などとされている。

 しかし、いまやこのような技術的な問題だけではなく、消費税の根本にたちかえって検討しなおすべきだと思う。

 将来の福祉財源としては、国民が広く薄く負担する大型間接税のような仕組みが適切であることは、われわれもかねて主張してきている。しかし、そのためには現行の不公平税制を是正し資産課税の適正化もはかりつつ、国民の理解と協力が得られねばならない。

消費税は見直しが必要 

この点は、朝日新聞は繰り返し主張しています。すなわち、免税点の引き下げとインボイス制度の導入です。

この点に変化は見られません。

 

消費税は福祉財源

さらに、朝日新聞は、消費税の”欠陥”の見直しだけではなく、もはや根本的な見直しが必要だ、と述べています。

「根本的な見直し」が何を指しているのか、よく分かりません。

しかし、「福祉財源として、大型間接税が適切だ」ということを「われわれはかねて主張してきている」と書かれていますから、根本的な見直しとは、「消費税の社会保障目的税化」のことを指しているのではないか考えられます。

 

さて、これまでの「消費税史 朝日新聞編 その1」「その2」をお読みになればわかるとおもいますが、「かねてより」朝日新聞が「福祉財源として、消費税が必要だ」と「主張」していた形跡を、私は見つけられていません。

もちろん「示唆」はされていました。しかし、それは明確な「主張」ではありませんでしたから、この社説で朝日新聞が「かねてより主張してきた」といっていることは、あまり信用できません。

 

そもそも、福祉財源として消費税は適切ではありません。このことは、また別の機会に説明する予定です。

 

”まとも”な野党

面白い記述があったので、7月28日の社説をまた引用します。

 

 参院与野党勢力が逆転した結果、税制問題は、政府・自民党内の調整だけでは済まないテーマになった。野党4党は、消費税廃止の方法、税制の再改革、消費税に代わる財源の補てん策について、早急に共同案をまとめようとしている。政府税調も、初めから枠をはめずに、幅広い論議をしてもらいたい。

 消費税を税制改革の基本にかえって論議する場合、平年度で5兆9000億円にのぼる消費税収入の代替財源をどうするかは、避けて通れない問題である。しかし、財源問題だけで消費税廃止論を封じようとしても、国民の納得は得られないだろう。

 社会党が約半分の3兆円を自然増収で賄えるとしているのに対し、自民党は「景気動向に左右される自然増収はあてにできぬ」と主張している。しかし、88年度の当初予算と比べた自然増収は5兆7000億円。年度途中の減税を考えると実質7兆7000億円余で、消費税収入を軽く上回る。

 86年度以来、すでに3年連続、巨額の自然増収が出ているのは事実だ。それなのに、なぜ、消費税実施を急いだのか、納税者に納得のいく説明をすることが先決だろう。

 

参議院では与党が過半数を失ったため、野党が連携すれば参議院では法案を通すことが可能になりました。

そこで、社会党を筆頭に野党4党は「消費税廃止法案」を参議院で可決すべく、動き始めた…という記事です。

 

最近(2019年)の消費税論議を見ていても、「消費税に代わる財源」をどうするのかという点で、論争になってしまうわけですが、1989年の社会党は「(消費税収分の)約半分の3兆円を自然増収で賄える」と主張していたのです。

まあ、バブル景気時代のことですから、現在とは単純には比較できませんが、経済成長による自然増収を減税財源にあてる、というのはとてもまっとうな主張に思えます。

当時は、現在と比較して”まともな”野党があったのかな、と思った次第です。

 

1989年8月10日

さて、宇野総理の辞職によって、8月10日海部内閣が発足しました。

 

ところで、海部俊樹早稲田大学出身で、竹下登の後輩でもありました。

総理辞職後も、自民党内で隠然たる実力を持っていた竹下は海部を宇野の後継に指名したわけですが、その理由は、同大出身ということもあり、コントロールしやすいことや、海部は国民から「クリーン」な政治家だと思われていたためです。

 

さて、閑話休題

 

朝日新聞社説『海部政権に注文したい』(1989年8月10日)から引用

 海部政権が発足した。今年に入って3人目の首相だ。早い時期に衆院を解散し、自民党政権の是非を国民に問うべきである。その前提に立って、新政権に注文したい。

 ここ数年の間、わが国の政治は異常な状態が続いた。どのようにして、国民の政治への信頼を回復するか。新政権の第1の課題だ。いま、海部首相に求められているのは、党内の大派閥の思惑にとらわれない強い指導性を発揮することである。

 もちろん、これは容易なことではない。党・内閣の人事では女性2人の入閣で新味を出したが、依然、派閥力学が幅をきかし、党内基盤の弱い海部氏が自由に振る舞える余地は極めて狭いということが明らかになった。

 また、宮沢派が党3役からはずれ、従来の総主流派体制に変化が起こる可能性も出てきた。海部氏は捨て身の政治運営をしない限り新風は吹かないだろう。

 第2は、消費税の見直しに誠意ある態度を示すことだ。高齢化社会に向けて望ましい税制はどのようなものか、ということだけではない。公約違反、強行採決など、民主主義の基本にふれる問題が集約されている。新政権の姿勢をうらなう根本課題だろう。

 海部首相は「福祉目的に使う」と使途を明確にし、「教育費や薬品の非課税範囲を見直す、消費者の立場に配慮する」などの考えを明らかにした。だが、問題はそんな技術的なことではない。「ウソをついて悪かった」と国民にわびるところから始めるべきだ。

 第3は、自民党が約束している政治改革の推進である。首相は当面、先国会に提出した政治資金規正法改正案、公職選挙法改正案の成立を急ぐ考えのようだが、両改正案に盛り込まれた企業献金の公表基準の引き下げ、寄付の禁止強化などは、不徹底である。見せかけの政治改革に終わってはならない。

 

解散総選挙を求める

1989年に入って、竹下、宇野、海部と3人目の総理大臣ですから、かなりの異常事態ですし、政権への不満を考えれば、総選挙を求めるのは当然と言えるでしょう。

 

問題はこの後です

 

消費税は福祉目的に使う

前回の「消費税史 朝日新聞編 その2」で引用した、1989年6月28日の社説では、政府は「消費税は一般財源である」という立場でした。

それが一転、海部首相は「(消費税は)福祉目的に使う」と明言してしまいました。

 

これは、朝日新聞の主張が通った、と言ってよいでしょう。ここから先、消費税と社会保障は切り離せない問題となっていきます。もしかしたら、海部首相のこの発言は、大きなターニングポイントだったかもしれませんね。

 

1989年9月28日

朝日新聞社説『野党の「財源案」をこう見る』(1989年9月28日)から引用

 消費税廃止を主張している社会、公明、民社、社民連4党が、消費税に代わる財源案をまとめた。10月下旬には関係法案を国会に提出し、政府・自民党に消費税廃止を求めて論戦をいどむ段取りである。

 消費税収入は、平年度5兆9400億円と見込まれている。したがって、廃止するならこれに代わる財源をどう手当てするのか示せというのが自民党の主張だった。これに対し共産党は「消費税を導入したのは自民党なのだから、政府・自民党が考えるべきことだ」と突っぱねている。

 4党は「財源確保は本来、政府の責任」としながらも、政策責任、政策能力を示す立場から提案する道を選んだ。結果は、残念ながらやはり支持基盤の異なる4党の妥協の産物となり、整合性に欠ける印象は否めない。

 4党は、参院選での与野党逆転を背景に、消費税を来年3月限りで廃止することで合意した。そして「国民税調」を設け、約2年間かけてわが国の税制を抜本的に再検討し、国民の信頼と理解を得られる新税制をつくると主張している。

 消費税廃止に伴う代替財源案は「本格的な税制再改革までのつなぎ」であるにしても、野党が主張する理念と結びつくものでなければならない。本来めざすべき税のあり方との整合性を欠いた、単なる財源のつじつま合わせに終わらせてはならないはずである。

 これをたたき台に、国民の評価に耐える税制改革案をねり上げてもらいたい。

 

野党は何をしていたのか

 自民党が消費税の”存続”を前提とした見直しを検討していたのに対し、野党は、特に社民党は消費税の廃止を公約としてきました。

そして、1989年参議院選挙では自民党が負け、社会党が躍進しました。これは「消費税をやめてくれ」という民意が示された、と言っても過言ではありません。

 

当然、野党は「消費税廃止」の公約実現にむけて策動し始めます。具体的には、「消費税廃止法案」を作って、参議院に提出しよう、ということです。

参議院では、野党が過半数ですから、各党が協力することで法律の可決が可能となります。もちろん、衆議院では否決されることは明らかですから、これも野党のポーズに過ぎないという見方も出来ます。

 

とにかく、野党は「消費税廃止法案」の作成準備に取り掛かりました。

その内容は大まかに、「とりあえず消費税は廃止して、その後2年のうちに「税制調査会」の議論の中で新しい税制を模索する」というものでした。

たしかに漠然としていますね。

朝日新聞も「結果は、残念ながらやはり支持基盤の異なる4党の妥協の産物となり、整合性に欠ける印象は否めない。」と、野党案を批判しています。

 

いずれにせよ、朝日新聞の立場はあくまで「消費税は必要で、福祉目的税にすべき」というものですから、「消費税の廃止」というのは、あまり面白くなかったのでしょう。

 

1989年11月14日

朝日新聞社説『消費税論議は分かりやすく』(1989年11月14日)から引用

 野党4会派による消費税廃止関連法案の審議入りが、またつまずいた。参院の税制問題等特別委員会が、法案の字句の訂正方法をめぐって対立したためだが、論戦を待つ側には、いかにももどかしい。

 今国会は消費税問題が最大の焦点といわれ9月28日に召集された。すでに会期のなかば、40日以上過ぎたが、パチンコ献金問題が表面化したりして消費税の存廃論議はわきに置かれた形になっていた。一時の熱気がさめたところで本題に入るという自民党の作戦通りに運んでいるようにみえる。

 われわれは、消費税の導入が国会で十分な審議をつくさないままに、自民党強行採決によって行われた経緯から「こんどこそ充実した審議を」と求めてきた。が、これまでのところ、与野党の対立点がはっきりしているわりにはすれ違いに終始しており、内容のある論議が行われたとは言い難い。衆院の解散、総選挙含みの政治情勢とはいえ、国民の関心は大きいだけに、残る会期を活用して中身の濃い論戦を期待したい。

 そのためには、消費税の「廃止」を主張する野党と「見直し・存続」を主張する与党とがそれぞれの案を出し合い、互いに比較しつつ、国民にわかりやすい論議をかわすことが必要である。

 

置き去りにされる消費税問題

1989年臨時国会は消費税問題が大きな問題になると思われていましたが、「パチンコ献金問題」という汚職事件が発覚し、野党はそちらで政権批判を強めました。

一方、「消費税廃止法案」は自民党の妨害によってなかなか審議入りできない状態が続き、また、消費税導入から半年以上も経過したことで、消費税は”旬”な話題ではなくなっていました。

 

朝日新聞も「今度こそ充実した審議を」と、与野党に求めています。

 

1989年12月2日

 自民党の消費税見直し案が、やっとまとまった。しかし、これが「消費者の立場に立って、思い切って見直す」と強調した海部首相の公約に沿ったものと言えるのだろうか。

 目標にしていた11月末決定がずれ込んだのは、食料品を流通の全段階にわたって非課税とするか、1.5%の軽減税率にして小売りのみ非課税とするか、でもめたからだった。結局、後者に落ち着いたが、小売価格ではどちらでも大差はないのだから、消費者にとってはあまり関係のないことだった。

 われわれがかねて主張してきたように、いまの消費税の仕組みには、大きく言って2つの欠陥がある。

(中略)

 現行消費税の持つ本質的な欠陥に目をつぶって、選挙目当ての小手先の見直しに終始していたのでは「広く薄く課税する」という原則も崩れてしまい、その穴埋めに、結局は税率も上げざるを得なくなろう。

 野党側の「廃止」にも問題は多いが「抜本見直し」もまた容易でないことがはっきりした。国民が、それをどう判断するかである。

 

自民党の見直し案

 宇野政権時代から始まった自民党内の消費税見直しの動きは、遅れに遅れ、12月の頭になってようやくまとまりました。内容は、軽減税率の導入などです。

 

朝日新聞は、消費税の見直しとして、免税点の引き下げとインボイス制度の導入を求めていて、この社説にも具体的なことが書かれていますが、何度も見てきた内容だったので(中略)させてもらいました。

自民党の消費税見直し案は、それらの消費税の”欠陥”の見直しには一切触れていなかったため、朝日新聞は不満を表明している格好です。

 

「結局は税率も上げざるを得なくなるだろう」という記述は気になりますが、文脈的に、朝日新聞の「主張」ではないと思われます。

 

 1989年12月21日

 自民党税制調査会が今回、最も力を入れたのは、先に決めた消費税見直し案の具体化である。消費税を定着させるという同党の立場からすると、大綱にはそれなりに評価すべき点がないわけではない。

 食料品の小売り段階非課税、生産と卸段階の軽減税率は、わかりにくいという批判もある。しかしこれをきちんと行うためには取引に税額票を添付した方が便利だから、現行の帳簿方式から伝票方式への切り替えに道を開くことにもなる。

 消費者が納めても国庫に入らぬ部分をできるだけ絞るために、簡易課税制度の「みなし仕入れ率」を一律ではなく、政令で業種ごとに定めることにした。また中間申告、納付回数を増やして「財テク運用」の道を封じようとしている。企業の交際費や社用車の購入には仕入れ税額控除を認めないことにした。消費税カルテルの廃止も検討するという。

 これらは、われわれがかねて指摘してきた現行消費税の欠陥を、多少なりとも改善するものだ。が、もともと欠陥の多かったものである。消費税廃止を主張する立場からは、この程度の手直しで満足できないのは、野党の指摘を待つまでもあるまい。

 自民党の見直しを評価

12月2日時点では、自民党の見直し案に不満を持っていた朝日新聞も、12月21日には一転、

「われわれがかねて指摘してきた現行消費税の欠陥を、多少なりとも改善するものだ」

として、一定の評価をする立場に変化しました。

 

私も、この記事を執筆段階で、この自民党消費税見直し案が結局どうなったのか、よく分かりません。ですからもう少し様子を見ることにします。

 

記事のまとめ

宇野内閣の崩壊から、1989年の年末までの消費税に関する朝日新聞社説を分析してきました。

1989年臨時国会は、この問題の一つの山場だったわけですが、野党の「消費税廃止法案」は廃案となり、自民党も見直しの方針を示しましたが、法案として国会審議をすることはなかったので、結局、消費税制度には何の変化もなく、導入から時だけが過ぎてゆき、国民の熱気もなくなる…という結果に終わりました。

 

消費税問題以外の部分では「天安門事件」や「ベルリンの壁崩壊」など、冷戦の終わりが見え始めました。

特に12月29日に日経平均株価が3万8957円44銭に達し、その後下落を始めたことは、「バブル崩壊」の前兆現象でもありました。もちろん、当時の人々はそれが「バブル」だなんてゆめゆめ思っていませんでしたし、1990年に入ってからもしばらくは好景気が続きますが、しだいに不況時代へと突入していくことになります。

 

さて、朝日新聞の社説については、7月28日の「消費税は将来の福祉財源として必要」として、消費税と社会保障を一体の問題として論じ始めたことが注目されます。

その後の臨時国会における政局化した消費税問題は、正直に言って、大局的には見るべきものはありませんでした。

 

今日はこんなものでしょうか。次回からはようやく1990年に入ります。いやはや、ペースが遅すぎる…それでは~

免税点制度と簡易課税制度

さきほど、「消費税史 朝日新聞編 その2 」を書いたばかりですが、まだ余裕があるので、予告していた「免税点制度」と「簡易課税制度」について解説しておきましょう。

財務省HPのリンクも一応貼っておきます

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d06.htm

 

消費税の中小事業者に対する特例処置

政府が消費税を導入しようとした時、当然ながら国民は猛反発をしました。

そこで、政府は事業者を懐柔するため、特例処置を導入することにしました。

それが「事業者免税点制度」と「簡易課税制度」です。

 

事業者免税点制度

財務省HPから引用すれば

「 前々年(個人)又は前々事業年度(法人)の課税売上高が1,000万円以下の事業者については、その課税期間について、消費税を納める義務が免除されている。」

 ということです。

これはあまり説明は不要でしょう。

課税売上高1000万円というのが免税点、というわけです。

そして、消費税導入当初は免税点は課税売上高3000万円に設定されていました。

 

この免税点制度は西洋先進諸国でも実施されている事ではありますが、免税点が3000万円というのはあまりにも高いということで批判を受けていました。

2004年(平成15年)には、免税点が1000万円に引き下げられ、ほぼ適正となったことで、今日ではあまり問題視されていません。

 

簡易課税制度

消費税の優れた点については「消費税は優れた税制」ですでに解説しました。

つまり、誰かが消費税を誤魔化したとしても、その分を誰かが補填しなければならないのであり、最終的には納税額として、(最終小売価格)×(消費税率)が確実に集まるのであり、国にとってみれば、これほど優れた税制はありません。

 

しかし、これには抜け道が用意されていて、それが「簡易課税制度」なのです。

事業者がいくつかの商品を販売する時、各商品の売上高も商品ごとに違うのは当たり前ですし、各商品の仕入れ価格が違うのも当然と言えるでしょう。

それでは、「事業者の事務処理経費が大きくなってしまう」という声が消費税導入当初にはありました。

そこで、簡易課税制度の利用を申請した事業者には「みなし仕入れ率」を認めることになりました。

見なし仕入れ率は業種ごとに異なっていますが、それは財務省HPをご覧ください。

 

何が問題なのか分かりにくいと思いますので、またまた『「消費増税」は嘘だらけ』(高橋洋一、2019年)から、具体的な例えを引用したいと思います

 

 たとえば、みなし仕入れ率が50%と決まっているサービス業などでの業種は、100万円の売り上げで8万円の消費税を受け取ったときに、仕入れ率を50%とみなして計算することが出来ます。仕入れ額は50万円となり、その8%分の4万円を控除できます。納付する消費税は8万円−4万円=4万円になります。

売り上げ:100万円           消費税8万円受け取り

見なし仕入れ額:100万円×50%=50万円 消費税4万円支払ったことに

納付する消費税:4万円(8万円−4万円)

 実際には、仕入れ価格が30万円で、2万4000円の消費税しか支払っていないとすると、本来納付すべき消費税額は、8万円−2万4000円=5万6000円です。

売り上げ:100万円      消費税8万円受け取り

実際の仕入れ額:30万円     消費税2万4000円支払い

納付する消費税:5万6000円(8万円−2万4000円)

 見なし仕入れ率を使うことによって、事業者が1万6000円の得をします。こういう益税があるため、消費税はかなりの徴収漏れと不公平が発生しています。

 インボイス方式を導入すれば正確な仕入れ価格が分かりますから、実額控除となり、益税はなくなります。(p142~143)

 

たいへんわかりやすい解説です。お分かりいただけたでしょうか?

 

インボイス制度

最後にインボイス制度についても触れておきたいと思います。

高橋氏の引用文献にも書いてある通り、インボイスを導入すれば益税はなくなります。

インボイスとは、受け取った消費税の額を明記した請求書、納付書のことです。

実際にインボイスを導入したところで、事務手続きはさほど煩雑にはならないと高橋氏は述べていますし、早く導入して欲しいものです。

 

まとめ

免税点制度と簡易課税制度について、お分かりいただけたでしょうか?

消費税を語るうえで、このような税制の知識は必須ですから、私の勉強もかねて、今後もこのような用語が出てきたら、随時解説していきたいと思います。

消費税史 朝日新聞編 その2

おはようございます、くらげです

朝早いですが、目が覚めてしまいました。ゴロゴロしている暇があるなら卒論をやらねばなりません。

 

さて、昨日書いた「消費税史 朝日新聞編 その1」の続きです。

前回までの部分で竹下内閣は崩壊しました。次は宇野内閣です

朝日新聞社

1989年6月28日

朝日新聞社説『消費税をどう「見直す」のか』(1989年6月28日)から引用

 

 消費税への根強い批判を背景に、政府税制調査会が制度の見直しに向けて検討作業を始めることになった。

 消費税が実施されてから3カ月。簡易課税を選択する事業者の届け出などは9月までだし、納税が一巡するのは来年5月だ。実施後の資料も整わないうちに、なぜ、いま「見直し」なのだろうか。

 政府の意図は明白だ。東京都議選やそれに続く参院選挙の争点として、消費税が大きな比重を占めており、見直すという形を整える必要があるからである。

 消費税は、もともと3年前の衆参同日選挙で、自民党が「やらない」とした公約をホゴにして導入した大型間接税だ。国会で中身の論議も十分行われないまま、自民党強行採決し、準備期間も短かった。それだけに、直すべき問題点がいろいろある。

 (中略)

 一口に「消費税の見直し」といっても、容易ではない理由がここにある。

 宇野首相が都議選の応援演説で、免税点の存続か見直しかで揺れる発言をしているのを見ても、政府・自民党にしっかりした覚悟があるとは思われない。まして実施後の資料も整わない現状では、選挙を意識したポーズだけの見直しに終わる公算が大きい。税額がはっきりしない内税方式を原則とするような見直しは、改悪となる恐れもある。

 選挙目当ての小手先の見直しなら、やらない方がましだ。野党は見直しより、廃止を主張している。いずれにしても、われわれがかねて主張している通り、国政選挙で早急に民意を聞くことが必要である。

 

選挙目当ての「見直し」

さて、長々と引用しましたが、時代背景を説明せねばならないでしょう。

この記事はあくまで「朝日新聞編」なので、詳しくはまた別の記事に回します。

簡単にまとめると、1989年6月3日に竹下内閣が総辞職し、同日宇野内閣が発足しました。そして、宇野内閣の目下の課題は直前に迫った「参議院選挙」でした。

 

前回までの朝日新聞社説が指摘していたように、消費税の税制にはいくつかの問題点がありました。そのことは

「消費税は、もともと3年前の衆参同日選挙で、自民党が「やらない」とした公約をホゴにして導入した大型間接税だ。国会で中身の論議も十分行われないまま、自民党強行採決し、準備期間も短かった。それだけに、直すべき問題点がいろいろある。」

と書かれている通りです。

 

しかし、消費税の見直しは朝日新聞も求めていたことです。何が問題なのかと言えば

「税額がはっきりしない内税方式を原則とするような見直しは、改悪となる恐れもある。

 選挙目当ての小手先の見直しなら、やらない方がましだ。」

というところでしょう。

要するに、宇野内閣の消費税見直しは選挙目当ての”ポーズ”に過ぎず、実現されても改悪になる可能性が高いから、やらない方が良い…というのが朝日新聞の主張です。

 

ところで、「内税方式」という新しい用語が出てきました

 

内税方式と外税方式

内税方式とは「税込み表示」のことで、外税方式とは「税抜き表示」のことです。

詳しくは以下に財務省HPへのリンクを貼っておきますから、そちらをご覧ください。

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/sougakuhyoji_gaiyou.htm

 

これは、そこまで複雑な話ではないので、ここで簡単にまとめておきます。

消費税導入当初は「税込み表示」と「税抜き表示」のどちらを採用すべきか、法律では定められていなかったため、その判断は各事業者に委ねられていました。

事業者は商品価格を安く見せたいのですから、とうぜん「税抜き表示」が主流になっていましたが、「税込み表示」をしている事業者もいたため、ややこしい状態になっていました。

この状態を打開するため2005年(平成16年)からは「内税方式」つまり「税込み表示」が義務づけられました。

私なんかは、税込み表示に慣れていたのですが、2005年から始まった制度だったのですねぇ。

ただし、2014年(平成25年)10月1日~2022年(令和3年)3月31日までの間は、「税抜き表示」を認める特別処置法が制定されました。これはもちろん消費税率の5%から8%への引き上げに伴ったものです。

最近(2019年)は、外税表示ばかりで、内税表示に慣れていた私なんかは、「税込み表示に戻せよ」なんて日々思っていましたが、これは特別法なので、2022年にはもとに戻るんですね。

 

さて、話を社説に戻します。

朝日新聞は「内税方式」について「改悪となる恐れもある」と表現しています。

なぜ「改悪」という表現になるのかは、よくわかりません。

消費税の目的

今回の記事は、まだ興味深い箇所があるので引用を続けます

 

 税調も「見直しのための審議を始めた」という形を整えるだけでは存在理由が問われよう。このさい、税制全体のなかでの消費税の位置づけなど、基本的な問題をしっかり審議してほしい。

 第1は、高齢化社会の福祉財源と消費税との関係を国民が納得できるように、負担と受益の実際を明らかにすることだ。

 政府は、高齢化社会の安定的な財源として消費税の導入が必要不可欠としながら「福祉目的税ではない」と一線を画している。一方で、厚生年金の掛け金引き上げ、支給開始年齢の繰り延べなどを打ち出している。巨額の自然増収が続くなかで導入された消費税に、納税者の不信感が強いのもこのためだ。

 つぎに、資産課税の抜本的な改革が必要である。政府は「所得、消費、資産等の間で均衡がとれた税体系」をうたいながら、資産課税は実質上手つかずのままだ。

 今回の税制改革が金持ち優遇と批判されているのは、所得税の累進構造をゆるめて逆進性の強い消費税を導入したからだ。この結果、高額所得者層の資産保有が増えれば、国民の間の資産格差はますます広がる。相続税贈与税はもとより、土地や株式についても課税方式の見直しが急務といえる。

 

 

さあ、「高齢化社会の福祉財源と消費税との関係」というキーワードが出てきました。

はっきりと書かれてはいませんが、朝日新聞は消費税の目的が高齢化社会に向けた安定財源の確保であり、さらには消費税は「福祉目的税」にすべきだ…とかんがえていることが垣間見えます。

 

「政府は、高齢化社会の安定的な財源として消費税の導入が必要不可欠としながら「福祉目的税ではない」と一線を画している。」

と書かれているとおり、政府は当初、消費税は一般財源という認識でした。

このことについては改めて解説が必要でしょうが、消費税は社会保障財源には向いていない税制です。その点、朝日新聞の書いていることは少しトンチンカンに思えます。

 

逆進性と富裕層への課税強化という主張はオマケみたいなものです。次へ行きましょう

 

1989年7月10日

 

朝日新聞社説『消費税論争に必要な冷静さ』(1989年7月10日)から引用

 参院選自民党過半数を割れば、野党側は一致して消費税廃止法案を出す意向を明らかにしている。参院先議で可決されれば、矛先は衆院に向かい、総選挙をめぐる政争の具として消費税はもみくちゃにされてしまう可能性が大きい。

 こうした消費税の「逆風」を招いたのは、ほかならぬ自民党自身であることを、とりわけ同党関係者は肝に銘じてもらいたい。

 巨額の自然増収が続いているにもかかわらず、政府・自民党が強引に導入した現行消費税には、消費者が納めても国庫に入らぬという根本的な欠陥がある。

 しかし、税制改革は仮に野党が政権を取った場合でもやらなければならぬ最重要課題である。リクルート事件や首相の女性問題とからめた「反自民感情」とは一線を画した、冷静な論争が行われなければならない。

 社会党は、消費税を今年度限りで廃止することを提案、直接税を中心とした総合累進課税の徹底を主張している。だが、このほかにも、いったん廃止したうえでより良い間接税をつくり直すという考え方もあろう。

 廃止した場合の混乱を避けるために、現行の消費税の欠陥を抜本的に改善すればよいという有権者もいるだろう。

 伝票方式に切り替えて品目別の区分けができるようにすれば、食料品のような生活必需品の税率を下げる半面、ぜいたく品の税率を上げることで逆進性が緩和される。

 消費税が高齢化社会を支える安定財源として必要だというなら、「福祉目的税」に限定することも考えられよう。

 与野党とも、こうした有権者の多様な選択にこたえられるよう、消費税・税制改革に対する態度を明確にしてもらいたい。

 痛税感をやわらげるために、本体価格込みの内税方式にするなどは、本質的な改革とはいえない。それよりも、不公平税制の是正、資産課税の強化など不十分なまま残されている改革にどう取り組むのか、その処方せんを具体的に示すことが先決だ。これらは、消費税が廃止された場合にその穴埋め財源をどうするかという問題とも絡んでいる。

 消費税が廃止された場合の「混乱」は、日本が民主主義国家であることを示す授業料とみたいが、その場合でも冷静な論議のうえに立った国民的合意の再形成が必要になる。

 

参院選直前の政治状況

宇野宗佑自民党内で総裁に選ばれた理由は「リクルート事件」に関わっていない「クリーン」な政治家だから、ということだったようです。ところが、就任間もなく宇野首相には「女性スキャンダル」が浮上します。このことは、参議院選挙に向けて致命的なこととなってしまいます。

一方、社会党は消費税の廃止と総合累進課税の導入を主張していました。

 

朝日新聞の立場

このような政治的混乱の中で、朝日新聞は消費税問題について、

リクルート事件や首相の女性問題とからめた「反自民感情」とは一線を画した、冷静な論争が行われなければならない。」

と語っています。

まあ、この主張自体はまともです。言うは易く行うは難し、だとは思いますが。

 

問題はこの後に書かれていることです。

 

福祉目的税

色々書いてありますが、インボイス制度の導入に関しては、従来の朝日新聞の主張と変わりません。注目したいのはこの部分、

「消費税が高齢化社会を支える安定財源として必要だというなら、「福祉目的税」に限定することも考えられよう。」

…考えられよう、などと他人事のように書かれていますが、6月28日の社説でも言っていたように、このあたりから朝日新聞は「消費税を社会目的税にすべきだ」と考え始めたと考えられます。ただし、まだ明確な「主張」になっているとまでは言えません。

 

内税方式について

6月28日の社説で、なぜ朝日新聞が内税方式に反対しているのか、よく分かりませんでしたが、

「痛税感をやわらげるために、本体価格込みの内税方式にするなどは、本質的な改革とはいえない。」

という、このあたりが理由なのでしょうか。

 

うーん、個人的には税込みか税込みじゃないのかは、結構深刻な問題だと思いますけど。

 

 

記事のまとめ

今回は宇野内閣時代の朝日新聞社説を見てきました。宇野内閣は6月3日に発足し、参議院選挙の敗北を理由に7月24日には退陣するという超短命政権で、見るべきところはあまりないのかもしれません。

しかし、消費税導入に伴う政治的混乱という意味では、象徴的な内閣ともとらえられるでしょう。

 

そしてなによりも、朝日新聞が「消費税と社会保障」を同じ問題として扱い始めた点は注目すべき点です。本来、その二つは別の問題として扱うべきだった…と私は思いますが、結果的には朝日新聞の思惑通りに歴史は進んでいくことになります。

 

 

は~、朝から疲れた。この記事、5000字近いんですよ?引用が多いとはいえ、このペースでは身が持たないかもしれませんね。再考の余地ありです。

それでは~

消費税史 朝日新聞編 その1

こんばんは、くらげです。

いよいよ本題というべき、新聞社説分析に入ります。これをやらなければ卒論になりません…。

 

社説と言っても、消費税について書かれているものは山ほどあります。ですが、ほとんどは政権批判に絡めて、消費税についても言及しているだけです。

消費税という制度”そのもの”について、新聞各社がどのように考えていたのかを、時系列的に明らかにすることが本論の趣旨と言えるでしょう。

 

ちなみに、研究範囲は「平成」に限っているので、昭和時代の新聞社説は一切無視します。余裕があれば着手するかもしれませんが、提出が12月であることを考えると、おそらく着手できないでしょう。

朝日新聞社

さて、まずは、朝日新聞から

1989年3月4日

朝日新聞社説『消費者の気持ちを重視せよ』(1989年3月4日)から引用します。

 

 どうせ新税に不満はつきものさ、と政府の関係者の間には消費者へのPRを最初からあきらめている気配さえある。こんなことで新しい税制がうまく離陸するだろうか。

 もちろん、問題はPRだけではない。かねて主張しているように、われわれは消費税そのものに反対しているのではない。しかし、政府が実施しようとしている消費税は事業者が受け入れやすくすることに配慮しすぎた結果、欠陥の多いものになってしまった。免税点の引き下げや簡易課税制度の見直しを含め、制度の欠陥も直さねばならない。

 

社説全体の趣旨は「消費税導入にあたって、事業者への説明は盛んに行われているが、消費者への説明が不十分だ。」ということです。

 

朝日新聞の立場

社説全体の主張は置いておいて…私が重視したいのは引用箇所です。

 

そこには「われわれは消費税そのものに反対しているわけではない。」と書かれています。

なるほど、1989年3月4日の時点で、朝日新聞は消費税の導入に反対の立場ではなかったことが分かります。

 

一方でこのようにも書かれています。「免税点の引き下げや簡易課税制度の見直しを含め、制度の欠陥も直さねばならない。」

ここからは、事業者免税点制度と簡易課税制度を問題視していたことが分かります。

 

免税点制度と簡易課税制度

事業者ではない一般消費者が、これらの制度についてどのくらい理解しているのか分かりませんが、かなり分かりにくい内容ではあります。

この記事では、この点についての説明は省略します。そのうち、あらためて記事にしたいと思います。興味のある方は以下に財務省HPへのリンクを貼っておきますので、そちらをご覧ください。

https://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/consumption/d06.htm

 

まとめ

朝日新聞の消費税に対する考え方をまとめると次のようになるでしょう。

 

免税点制度や簡易課税制度などの”欠陥”の見直しは必要だが、消費税の導入自体には反対しない。

 

1989年3月30日

消費税は1989年4月1日に導入されたので、その直前の社説です。

 

朝日新聞社説『消費税は早急な見直しを』(1989年3月30日)から引用

 実施後であっても早急に見直しが必要なのは、つぎの点である。

 第1に、自己記録による帳簿方式を続けている限り、消費税への信頼は生まれない。欧州共同体(EC)諸国が実施しているように、税額票の発行を義務づけるべきだ。

 第2に、売上高3000万円の免税点はイギリス、フランス、西ドイツなどと比べても高過ぎる。1000万円程度に下げるべきだ。

 第3に、小売業者の仕入れを一律80%(卸売業者は90%)とみなす簡易課税制度は、業者間の不公平を生む。これを廃止しても、伝票方式をとれば仕入れ控除はきちんとできるはずだ。

 以上の措置をとれば、消費者の払った税金が事業者のふところに入る分を少なくすることができる。また、消費税が信頼され、制度になれてくれば、生活必需品の税率を下げる半面、ぜいたく品の税率を上げるという複数税率に移行することも可能になろう。逆進性を少しでも緩和するために、EC諸国がとっている措置である。

 今回の税制改革の狙いの1つは、サラリーマンの重税感をやわらげることにあった。消費税の導入による税収は、既存間接税の改廃分を差し引きすると2兆円に対し、所得税減税は3兆3000億円とこれを上回っている。

 それにもかかわらず、サラリーマン層の不満が根強いのは、事業者には「みなし法人課税」などの優遇措置がそのまま残されたうえに、消費税が一部の事業者に取り込まれてしまうためだ。株式や土地でもうける人の資産課税が不十分なことも指摘されている。

 このうえに便乗値上げが重ならぬよう、政府は万全の体制で臨んでもらいたい。

 

 

社説全体の趣旨は、引用部分とあまり変わりません。

 

見直しが必要な点

先ほどの3月4日の社説をより具体的に説明しています。

消費税の見直しが必要な点として、3点が挙げられていますが、要するにこれらは、免税点の引き下げとインボイス制度の導入を主張していると思われます。

 

ちなみに、免税点の引き下げは2004年に実現しています。インボイス制度の導入は令和元年時点では、まだ実施されていませんが、実施される予定です。

インボイス制度についても説明が必要と思われますが、簡易課税制度の絡みであるので、その時にあわせて解説します。

 

複数税率」の提案

加えて、朝日新聞は、逆進性の緩和策として、将来的な「複数税率」の導入を提案しています。

この主張は、「軽減税率」という形で実現したと言えるでしょう。

 

消費税導入の目的

消費税導入の狙いの一つとして、朝日新聞は、サラリーマンの重税感の緩和を指摘しています。この引用記事では使われていない言葉ですが、「直間比率の是正」が消費税導入の理由でした。

財政再建」や「社会保障の充実」という目的はこの記事には書かれていません。もちろん、1989年時点で財政再建について語る必要はなかったのですが。

 

まとめ

3月30日の社説では、消費税の”欠陥”の具体的な見直しや、「複数税率」の提案、また、消費税導入の目的が語られています。

財政再建」が目的として掲げられていないのは、当時の状況からして当然ですが、「社会保障の充実」などが目的として挙げられていないことは注目したい点です。

 

1989年4月27日 

1989年4月25日、竹下首相は内閣総辞職を表明しました。直接の原因はリクルート事件です。リクルート事件については、別の機会に触れたいと思います。

実際に内閣総辞職となったのは6月3日です。

以下の社説は辞職表明を受けたもの。

 

朝日新聞社説『強行採決は許されない』(1989年4月27日)から引用

 

 自民党は、このあいまいな時間を自分の都合のいいように利用しようとしている。首相退陣表明のその日、衆院予算委員会で予算案の審議を単独で強行した。きょうにも採決して、連休前に衆院通過を図る構えだ。

 予算といえば国民生活の隅々までかかわる。その審議は、慎重に徹底的に行われなければならない。衆院予算委員会では、税金を集める消費税法案を自民党の単独採決で可決した。いままた、税金の使い方をきめる予算案も単独採決しようとするのか。

 権力の所在があいまいないま、自民党強行採決することは、政治責任のありかたに、いやしがたい悪例を残す。この点を、何より憂える。

 

 まとめ

昭和の出来事ではありますが、消費税の導入は強行採決によって決定されました。その経緯については「消費税史 昭和編」で簡単にではありますが、触れています。「昭和」の出来事ですから深入りはしません。

 

そして、この社説にもあるように、平成元年度予算も強行採決されました。ただし、この時予算委員会の審議が停滞していたのは、消費税のことよりもリクルート事件の影響の方が強かったのかもしれません。

 

 記事のまとめ

朝日新聞は消費税導入自体には反対せず、免税点や簡易課税などの制度的な見直しを求めていたことが分かりました。

しかし、消費税をなぜ導入しなければならないのか、という点については、社説を読む限りではあまり多く語られていません。ただひとつ、「サラリーマンの重税感の緩和」という点が挙げられているのみです。

ただ、消費税の導入が決定したのは昭和のことですから、もう少しさかのぼれば、導入しなければならない理由について詳しく書かれた社説もあるかもしれません。

 

 

今日は竹下内閣時代の朝日新聞社説を分析してきました。他にもたくさん記事はありますが、私が重要だと感じたのはこんなところです。

なんとなく、朝日は消費税導入には反対していたんじゃないかと予想していたので、驚きはしました。

 

それでは、今日はこんなところで

 

平成消費税史 その1

こんにちは、くらげです。

なんだか、今日はよく眠れなかったようでとても疲れています…

今日は早稲田の英語の過去問を解く予定なのですが、出来るかなぁ。

 

消費税史

消費税による景気の悪化

さて今回から本格的に「消費税史」に突入していきたいと思います。

一般的な認識とは違うかもしれませんが、消費税の歴史は平成史を語るうえで必要欠くべからざる要素だと、私は考えています。

それは何故かと言えば、平成において日本が経験した”大不況”と言えるものは、ほとんどの原因が消費税にあるからです。

これは少し説明が必要かもしれませんので、長々とではありますが、資料を引用したいと思います。

引用文献は雑誌『正論』「SEIRON時評 NO.54」(江崎道郎、2019年)です。

 

「日本の国内総生産(GDP)は、約60%以上を個人消費が占める。よって景気回復の大きな力となるのは個人消費なのだが、その個人消費が約5%を超える落ち込みを記録した時期は、平成30年の間に次のように6回あるという。

①3%の消費税が導入された1989年4~6月期

②消費税が5%に引き上げられた1997年4~6月期

リーマンショック直後の2008年10~12月期

エコカー減税効果やたばこ増税前の反動減が見られた2010年10~12月期

東日本大震災により自粛ムードが広がった2011年1~3月期

⑥消費税率が5%から8%へと引き上げられた2014年4~6月期

 つまり長引くデフレで苦しんだ日本の景気を冷やした6回のうち、3回は消費税のせいであったわけだ。ある意味、平成30年の日本経済は、消費増税によって個人消費を落ち込ませた、人為的に作られた不景気の連続であったと言えよう。」(p284~285)

 

 この江崎氏の記述は、週刊『エコノミスト』「平成30年史 変わる『政策目的』に消費翻弄」(星野卓也、2019年)を参考にしています。

そちらの資料も持っていますが、簡潔にまとめられているので、こちらを引用しました。

 

私が言うまでもなく、消費税の増税は確実に景気を悪くしています。その点、2019年10月の消費税率引き上げも景気を悪くすることは間違いないと思われますが、まだ統計が出ていませんし、なにより、それは「令和」の出来事ですから、これ以上は申し上げません。

 

国債の発行と償還額の変遷

さて、消費増税で景気が悪くなった…と言っても一回目の消費税導入、1989年は四半期で個人消費が落ち込みましたが、バブル景気の最中でありましたから、”大打撃”とまではなりませんでした。

しかし、二回目の消費増税、1997年は”致命的”と言えるほど、日本経済を棄損したと思われます。

この主張には根拠が必要でしょうから、次のグラフをご覧ください。これは財務省の統計資料をもとに私が作成したグラフです。

 

f:id:kurage0404:20191006154013p:plain

国債の発行と償還

青い線は公債費、つまり国債の発行総額を示しています。

緑の線は国債費、つまり国債の償還総額を示しています。

 

一見して分かることは、

①1990年あたりでは国債の発行額よりも償還額の方が大きい

②1998年に国債発行額が激増している

③2009年に国債発行額が激増している

という3点でしょうか。

 

①については、バブル景気の時には日本の財政は黒字だったことを示しています。

じゃあ、なんで消費税を導入したんだ?という点については、また別の機会に検証していきましょう。

②については、これはもう明らかに1997年の消費増税が景気を悪化させたことを示していると考えられます。国債の発行額は1998年を境に一段階上がっています。これは、97年の増税の悪影響がず~っと続いていることを示していると言えるでしょう。

③については、言うまでもなくリーマンショック後の景気対策です。麻生内閣が様々な景気対策を打ち出したことは記憶に新しいでしょう。

 

グラフを見て、97年の消費増税がいかに財政を棄損し、日本経済を冷え込ませたのか、お分かりいただけたでしょうか?

 

一般会計の歳出

さて、次に、具体的に税収や発行された国債が何に使われたのかを見ていきましょう。

次のグラフも、財務省統計資料をもとに、私が作成したグラフです。

 

f:id:kurage0404:20191006154023p:plain

 

それぞれの線が何を示しているのかは、グラフの下に書いてありますから、小さいかもしれませんが、それを参照してください。

 

さてこのグラフを一見して明らかに分かることは

①公共事業関係費が1994年までに激増し、しばらくは安定していたものの、2000年以降は漸減しているということ

②2000年に国債費のピークがあること

社会保障費が一貫して上昇を続けており、特に2010年には激増していること

という3点でしょうか。

 

①について、ご存知かもしれませんが、バブル崩壊後の景気対策として、1990年代には公共事業が盛んに行われました。この点については、メディアが散々に批判していますので、今後紹介していきたいと思います。ちなみに、民主党政権時代の2010年~2012年には目に見えて減っていますね。笑えます。

②について、ちょっとよく分かりません、勉強不足です。すいません。今後調べます。

③について、社会保障についてはまだ詳しく説明できていませんし、説明するかどうかも未定ですが、消費税問題と密接に関係していることでもあります。とにかく、「一般会計」において社会保障費がどんどん増えていくという状態はあまり健全とは言えません。

私もまだまだ勉強不足ではありますが、社会保障費は基本的に「特別会計」で処理すべき…なのだと思います。消費増税社会保障の充実、というロジックについてはいずれ批判することになると思います。

ちなみに、2010年に社会保障費が激増しているのは、やはり政権交代の影響と考えられます。

 

歳入における消費税の割合

…歳出を見ても、消費税がどんな影響を及ぼしているのかというのは、よくわかりませんね笑。しかし、歳出の裏側である歳入については、昨日出したグラフを見ても分かると思いますが、確実に消費税の割合が増えているのです。

折れ線グラフでは分かりづらいと思い、割合を示すグラフを作成しました。

 

f:id:kurage0404:20191006170523p:plain

 

黄色の部分が消費税です。

うーん、これでもちょっとわかりづらい気もしますが、1989年には数%でしかなかった消費税の割合が、2017年には約30%にまで増えていることが分かると思います。

最近ではよく指摘されるようになったことですが、法人税所得税の減少分を消費税が補っている、というのは本当の事です。その是非は置いておいて。

 

まとめ

今日は、平成史全体を税金の側面から俯瞰的に紹介しようと考えて記事を書いたつもりなのですが、何が言いたいのか、分かりづらくなってしまいましたね。

まあ、私の研究はあくまで「消費税史」であり、消費税の是非ではなく、消費税によってどのような”事実”があったのかを焦点にしています。

ですから、つまらない事実の羅列になってしまったかもしれません。

 

本日のテーマについては、私が気付いていないこと、読者の皆さんが気が付いたこと、などなど、様々あるかと思いますので、コメントはいつでもお待ちしています。

 

それでは。

 

消費税史 昭和編

こんばんは。くらげです。

先ほど初めての投稿をしたばかりですが、眠気もしないのでもう一つ記事を書くことにします。

主な参考文献は『戦後ニッポン 総理の決断 1945‐今』(池上彰、2015年)です。

引用部分は前回に引き続き『「消費増税」は嘘ばかり』(高橋洋一、2019年)です。

 

テーマは消費税導入に至る経緯です

 

消費税導入の経緯・昭和編

私の卒論の研究範囲はあくまで平成時代なので、昭和の範囲での出来事は簡単に流します。

赤字国債の発行

財政法第4条では原則として国債の発行が禁止されています。原則として、というのは例外的に建設国債の発行は認められているからです。

現在では、この財政法の規定自体に批判の主張もあり、赤字国債の発行は常態化していますが、今でも赤字国債の発行には毎年特例法が制定されています。

 

1965年(昭和41年)、佐藤内閣の下で戦後初めての赤字国債が発行されました。詳しい経緯は割愛。そこからしばらくは赤字国債の発行はありません。

 

大平内閣

1971年(昭和46年)、アメリカのニクソン大統領は金とドルの交換を停止しました。いわゆるニクソンショックですが、ここからじわじわと為替が円高へ進んでいきます。

また、1973年(昭和48年)、第一次オイルショックが発生。

このような状況を背景に、インフレ率は高騰。「狂乱物価」と呼ばれる状況に至ります。

景気は悪くなる一方で、物価は上がり続けるというスタグフレーション状態に陥り、このあたりから従来の「ケインズ政策」から「新自由主義政策」へと経済学の潮流も変わり始めます。このあたりのことは、いつかまとめて記事にしたいです。

 

そして1975年(昭和50年)から赤字国債の発行が再び始まりました。

このような状態に危機感を持っていたのが大平正芳です。

大平は1979年(昭和54年)の臨時国会において一般消費税の導入にふれ、消費税の導入を争点に解散総選挙に打って出ましたが、自民党内の猛反発により選挙中に消費税導入を公約から撤回しました。それでも、自民党過半数割れとなり、選挙に敗北しました。

平氏は大蔵省出身の政治家であり、現代の感覚からすれば”お察し”ですが、そうではないと高橋洋一は指摘しています。

 

「(消費税導入について)優れた税制を導入するために、国民の反発があっても尽力された立派な方という印象を持っています。志半ばで急死されたのは、本当に気の毒だと思いました」(カッコ内は引用者補足)(p177)

 1980年(昭和55年)の戦後初の衆参同時選挙の最中、大平首相は急逝しました。

 

中曽根内閣

大平首相の失敗の影響で、その後しばらくは「増税なき財政再建」が進められます。

具体的には行政改革であり、中曽根内閣では「国鉄」「日本専売公社」「電電公社」の三社民営化が行われ、それぞれ「JR各社」「JT」「NTTグループ」へと民営化されました。

1987年(昭和62年)中曽根はJRの民営化を実現した後、最後の仕事として消費税の導入を目指しますが、前年の総選挙において「大型間接税は導入しない」と公約していたため、猛反発を受けます。中曽根は竹下登を次期首相に指名し、退任しました。

 

竹下内閣

竹下内閣は発足直後から税制改革を最大の課題としており、消費税の導入を目指していましたが、野党からは公約違反であることやリクルート事件で激しい追及を受け、最終的には委員会において消費税等税制改革法案を強行採決で通し、法案を成立させました。1988年(昭和63年)11月10日のことでした。

 

1989年(昭和64年)1月7日、昭和天皇崩御され、同日、新元号「平成」が発表されます。

ここからが、論文の本題ですが、今日はもう疲れた。

まとめ

昭和における消費税導入の試みは失敗の連続でした。前回の記事で示したように、消費税は他の税にはないメリットもあります。また、現在のように慢性的なデフレ状況ではなかったのですから、たとえ消費増税があったとしてもさほど影響はなかったかもしれません。

とにかく、消費増税の試みは本当に昭和の最後に法律が成立し、実際には平成元年に増税が実施されました。先の事ですが、最初の消費増税バブル経済のおかげもあって、実際に経済にはそれほど影響は出ませんでした。

しかし、この先、消費税についてあまり良い話がないことはあらかじめ予告しておきます。

 

それでは。