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歪められた消費税議論

おはようございます、くらげです

 

さて、これまで「消費税史 朝日新聞編 その1」「その2」「その3」と記事を書いてきました。

その中で、朝日新聞が「消費税は社会保障目的に使うべきだ」と1989年半ばごろから言い始めたことは、上記の記事を読んでいただければ、お分かりいただけると思います。

そして、朝日新聞がそのような社説を書くたびに、私は”私の見解”として「消費税は社会保障目的には不適である」とも申し添えてきました。

しかし、その説明は「別の機会で」ということにしてきました。

 

ですから今回の記事は「なぜ消費税は社会保障目的には不適なのか?」という疑問に対する回答となります。

くわえて「消費税は優れた税制」の続きにもなっていますので、そちらもご覧ください。

 

歪められた消費税議論

消費税は優れた税制です。詳しくは「消費税は優れた税制」で説明済みですが、簡単にまとめると「脱税がしにくい」「徴税コストが安い」「景気に左右されない」という3点に集約されます。

 

一方、巷では”消費税のデメリット”が語られることがあります。

まずはその点をまとめておきましょう。

消費税のデメリット

消費税には大まかに二つのデメリットがあると言われています。他にも税制上の欠陥と言える点もありますが、それについては「免税点制度と簡易課税制度」をご覧いただくとして、まずはその2つについて説明していきましょう。

逆進性がある

消費税には逆進性があります。

 

消費税とは”消費”に対して発生する税金ですから、収入があっても貯金などをしてしまえば消費税はかからないことになります。

これでは高所得者に有利で、低所得者に不利になってしまいます。これが「逆進性」と呼ばれる問題です。

 

より具体的に説明します。

人間はだれしも食べ物を食べなければ生きていけません。それは当たり前のことです。

しかし、人間は無限に食べ物を食べることは出来ません。つまり、お腹がいっぱいになってしまえば、そこで食事は終わります。

 

もちろん、”消費”には食料品以外も含まれますし、食べ物だって高いものと安いものといった違いはあります。

それでも、人々の消費支出は大雑把に言って、低所得者であろうが高所得者であろうが大して変わらない、ということが言えるでしょう。

 

少し難しい言葉を使えば、可処分所得における消費支出の割合は、低所得者ほど大きく、高所得者ほど小さくなる、ということです。

 

難しいことではありません。

例えば、年収300万円の人が一年間に250万円の消費支出をしたとしましょう。

軽減税率などを無視すれば、払う消費税額はだいたい、250万×10%=25万円となります。

一方、年収2000万円の人が一年間に600万円の消費支出をしたとします。

すると、払う消費税額はだいたい600万×10%=60万円ということになります。

 

一見、高所得者の方が消費税を多く払っているように見えますし、実際にそうなのですが、所得に占める消費税の割合となると、話は変わってきます。

計算すると前者の人は約8.3%なのに対し、後者の人は約3.0%となります。

 

年収300万円  消費支出250万円  消費税額25万円  割合8.3%

年収2000万円   消費支出600万円  消費税額60万円  割合3.0%

 

低所得者の方が、所得に占める消費税の負担割合が大きいことがお分かりいただけたでしょうか?

 

まあ、これは架空の設定なので、現実のグラフをお示しします。

全国商工団体連合会HPから引用します。

https://www.zenshoren.or.jp/zeikin/shouhi/120116-02/120116.html

 

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私が説明したように、確かに消費税は低所得者により重く、高所得者により軽く、負担がかかっていることがお分かりいただけるはずです。

これが消費税の逆進性です。

 

景気安定化機能がない

消費税には景気安定化機能がありません。

これは「消費税は優れた税制」で説明した、消費税は「景気に左右されない」ということの裏返しです。

 

法人税は事業者が赤字になれば払う必要はありませんし、所得税には所得に応じた累進課税があります。それは「ビルトインスタビライザー」と呼ばれ、景気を安定化させる機能も持っています。

 

消費税にはそのような機能がない、ということです。

 

 

消費税は地方行政サービスの財源に向いている

ここまで、消費税のデメリットを解説してきましたが、実を言うとそれらはある意味、"歪められた"議論なのです。ここからはそのことについて説明します。

 

「逆進性」の議論は本質的ではない

税金を考える上で、払った税金の負担と行政サービスの受益が等価値でなければならない、ということはご理解いただけると思います。

十分な所得があるのに、税金を滞納している人が、「家が火事になったから」といって消防車を呼べば、もちろん消防車は来るでしょうが、普通に税金を支払っている人からすれば、不満この上ないでしょう。

 

そして、世の中には、所得に関係なく全員が平等に享受している行政サービスがいくつもあります。例えば、ごみの収集、水道管理、警察、消防…などです。

日本は治安のよい国として有名ですが、それも警察がきちんと機能しているからです。治安の良さは所得の大きさに関係なく、全ての人が享受しています。

 

警察や消防などの基礎的な行政サービスは、所得に関係なく全員が平等に享受しているサービスである以上、負担=受益という観点から言って、それらのサービスの財源となる税金は、日本に住む人全員が平等に支払うべきでしょう。

 

安定財源は必要

そして、それらの基礎的な行政サービスは安定的に運営されなければなりません。

「今年は景気が悪くて税金が集まらなかったから、消防業務は休止します」なんてことは出来ません。

ですから、基礎的な行政サービスの財源は安定的に確保する必要があります。

 

消費税は地方行政の財源に適している

ここまで見てきたように、基礎的行政サービスは平等かつ安定的な財源が必要であり、それに最適なのが消費税なのです。

 

基礎的行政サービスの多くは地方自治体が担っていますから、消費税は地方行政の財源に適している、と言えるでしょう。

 

消費税が社会保障財源に適していないワケ

社会保障は保険方式

さきほど、税金は「受益=負担」が基本だ、と申し上げました。

では、社会保障はどうでしょうか?

たとえば、生活保護などは給付があるだけで、負担がありません。しかし、生活保護を受給している人は、税金を払うほどの所得がないから生活保護を受けているのであって、彼らに負担を求めるのは酷というものです。

生活保護については、「所得の再分配」という意味合いもあるのですから、累進性のある所得税が財源としては適切でしょう。

他にも、年金や医療保険はどうでしょうか。これらは、保険料を支払った人が年金や医療費の負担軽減という形で受益する仕組みです。

特に年金については、一定の年数以上払わないと年金を受け取れませんし、年金保険料として支払った額が多い人ほど、将来受け取れる年金の額が大きくなります。

 

『「消費増税」は嘘ばかり』(高橋洋一、2019年)から引用します。

 

消費税は誰がいくら支払ったのかという明細が残っていないのに対して、社会保険料は誰がいくら支払ったかという個人別の明細記録が残っています。じつは、この記録の有無の違いが大きい。保険料は記録が残るので、給付と負担の関係が明白になります。保険料を多く支払った人は給付が多くなり、保険料をあまり支払っていない人は、給付が少ない。じつにシンプルな仕組みです。(p119)

 

引用文献からも分かる通り、消費税を社会保障財源にしてしまうと、受益と負担の関係がゴチャゴチャになってしまうのです。

ですから、年金財政が苦しいなら年金保険料を上げればよく、医療保険も同じです。

 

以上のことから、消費税が社会保障財源には向いていないということがお分かりいただけたでしょうか。

 

適正な消費税率とは

実は、消費税は税収の全てが国の税収となるわけではありません。

現在の消費税率は10%ですが、そのうちの2.2%は地方へ回り、残りの7.8%が国の税収となります。

 

現在、消費税は社会保障財源として使われていますが、もし仮にそのような悪しき慣習をやめて、消費税を全て地方行政の財源に回すとしたら、適正な消費税率はいくつになるのでしょうか?

 

地方財政は、独自税収+消費税収+地方交付税交付金、で賄われています。

ですから、国の一般会計において、消費税を社会保障費にあてるのではなく、地方交付税交付金だけに絞って、税率を決めることにしましょう。

 

財務省の2018年度(平成30年度)一般会計決算概要を見ると、

地方交付税交付金:15兆8713億円

消費税収:17兆6808億円

となっています。その差額は1兆8095億円です。

当時の国の消費税収は消費税8%のうち6.3%分でしたから、消費税1%につき2兆8064億円ほどある計算になります。

すなわち、地方交付税交付金と消費税収の差額は、消費税率に換算すると約0.64%であり、8‐0.64=7.36 なので、適切な消費税率は7.36%という結果になります。

 

そうとう大雑把な計算ではありますが、消費税率を8%から10%に上げる必要はなかったと言えるのではないでしょうか?

 

まとめ

巷間言われている通り、消費税には逆進性があります。それは確かです。

しかし、それは「消費税は社会保障費に使う」という前提に基づいた議論です。社会保障とは、そもそも所得の再分配も担っていますから、その財源に逆進性のある消費税を用いることは本末転倒です。

「消費税は基礎的行政サービスに使う」ということにすれば、警察や消防などは所得に関係なく受益しているわけですから、その財源となる税金は全員が平等に支払うべきで、消費税の逆進性は問題ではなくなります。

 

繰り返しになりますが、消費税は優れた税制です。そんな優れた税制が日本においてこれほど呪われた税制となってしまったのは、消費税と社会保障という、本来相容れない問題を一体の問題として扱ってしまったためです。

 

さて、消費税と社会保障の関係についてお分かりいただけたでしょうか?

私が提案した「消費税率7.36%が適正」というのは、ほんのお遊びです。しかし、参考程度にはなる数字だとは思います。

 

はー、長かった。これで、卒論の序章部分、つまり本論の前提となる消費税の基礎知識の説明はほぼ完了しました。

それではこのへんで